従業員満足度の向上が企業を成長させる!従業員満足度調査とは?・目的・アンケートや分析の実施方法

従業員満足度調査 (ES調査)とは

従業員満足度(Employee Satisfaction、以下ES調査)調査とは、自社の従業員に対して仕事内容や人間関係・職場環境などといった様々な観点に関する満足度を測定する調査のことです。「働き方改革」が叫ばれる近年、従業員の満足度を定量的に把握するES調査は大変注目を集めています。労務行政研究所が上場企業またはこれに匹敵する大手企業を対象に数年おきに行っている「人事労務諸制度実施状況調査」によると、ES調査の実施率は年々上昇し、直近2018年には3割を超える企業がES調査を実施しております。

なぜ従業員満足度調査(ES調査)を実施するのか。ES調査によるメリットと目的

従業員の労働環境向上

ES調査により仕事に関する様々な観点から従業員の満足度を測定し、それを基に人事施策を打つことで効率的に従業員の労働環境を改善することができます。また、ES調査の制度があること自体が過酷労働やハラスメント問題などの抑止力となるため労働環境の悪化の予防にもつながります。

企業の業績向上

ESを向上させることは従業員のモチベーションやエンゲージメントを向上させることにつながるため、従業員の生産性が劇的に向上し利益率や売上成長につながります。また、従業員は顧客との接点であるため、ESを向上させることで顧客満足度も向上させられると言われています。厚生労働省のある調査によると、従業員満足度を重視している企業は顧客満足度のみを重視している企業に比べて売上高も営業利益率も増加傾向にある企業が多いことがわかりました。

厚生労働省の調査を参考に弊社作成

人材確保強化

ES調査を実施している企業は従業員に対して誠実に接する企業であると認識されることから、ES調査を実施していることを外部に公開することで労働者にポジティブな影響を与えることができ、採用を強化することができます。また、ES調査により従業員の労働環境改善へのアクションを起こすことで離職率の低下に繋がるため、継続的な人材育成を行うことができます。厚生労働省のある調査によると、従業員満足度を重視している企業は顧客満足度のみを重視している企業に比べて人材の質も量もともに確保できている企業が多いことがわかりました。

厚生労働省の調査を参考に弊社作成

従業員満足度調査(ES調査)のアンケート設計

ここでは、現在のES調査の質問の基本になっている3つの心理学の理論に関してご紹介します。この3つの理論は批判もありながら、モチベーション理論などその後の心理学の理論に大きな影響を及ぼしている必見の理論ですので、必ず理解しましょう。

マズローの欲求5段階説

マズローの欲求5段階説とは、従業員満足度の起点となる欲求に関して人間の欲求は5段階のピラミッドのように構成されており、下の階層の欲求が満たされない限り上の階層の欲求が芽生えないとする心理学理論の1つです。この理論は様々な批判がありながらも、以下2つの理論のベースになっている理論であり、その人間の5段階の欲求は下の図のようになっています。


・生理的欲求

第1段階の欲求で、生きていくための本能的な欲求(食事・睡眠・排泄など)のこと。ES調査ではワークライフバランスや最低限の給与待遇などに該当します。

・安全の欲求

第2段階の欲求で、危機を回避して安全で安心した暮らしを営みたいという欲求のこと。ES調査では会社の将来性や解雇のリスク、また貯蓄が可能なくらいの給与待遇などに該当しまう。

・社会的欲求

第3段階の欲求で、集団に所属したり、仲間を求めようとしたりする欲求のこと。ES調査では主に会社や部署への帰属意識や人間関係などに該当します。

・承認欲求

第4段階の欲求で、所属する集団の中で高く評価されたいといった自分の能力を認められたいとする欲求のこと。この欲求は他者から承認されたいという低位の欲求と自分で自分を認められるようになりたいという高位の欲求から構成されます。この欲求を獲得することがモチベーションとなり、自分のポテンシャルに気づき、自分(会社)を成長させる原動力になると言われています。ES調査では、同期・上司からの評価・承認、成果にあった昇進・給与待遇などが該当します。

・自己実現欲求

第5段階の欲求で、自分にしかできないことを成し遂げたい、自分らしく生きていきたいという欲求のこと。ES調査では仕事での成長や研修・異動制度などに該当します。また、マズローはこの欲求の更に上の段階に自己超越欲求があると発表し、自分を超えて社会を良くしたいという欲求が芽生えると発表しました。ES調査では仕事のやりがいや会社の理念への共感などが該当します。

このように欲求は大きく5段階に分割され、下の階層の欲求が満たされて初めて上の欲求が発現するというのがマズローの欲求5段階説です。5つの欲求をすべて満たした「自己実現者」には、自己・他者・自然に対する受容や自発性、創造性の特徴が見られると言われ、ES調査では自己実現欲求まで満たされている、最低でも承認欲求まで満たされている状態を目指しましょう。

ハーズバーグの2要因理論

ハーズバーグの2要因理論とは、人間の仕事における満足度は「満足」に関わる要因(動機づけ要因)と「不満足」に関わる要因(衛生要因)の別のもので構成されるとする心理理論の1つです。この理論は最もES調査に使われている理論で、まずは「満足」に関わる要因(動機づけ要因)と「不満足」に関わる要因(衛生要因)を下に示します。

この理論の言わんとすることは、動機づけ要因の満足度が高い時には総合的な満足度も高くなるが、仮に低くても総合的な満足度に負の影響を与えない、逆も同様で衛生要因の満足度が低い時には総合的な満足度が低くなるが、仮に高くても総合的な満足度に正の影響を与えないということです。言い換えると、動機づけ要因は満足できるかできないか不確実な要因のため、満足できた場合には総合的な満足度を高めることができ、逆に衛生要因は満足できて当たり前の要因のため、満足できない場合には不満足に影響を及ぼすということです。ES調査では最低限、動機づけ要因と衛生要因はアンケート設計に入れておき、両方の要因の現状を把握しておくべきでしょう。また、この理論における衛生要因はマズローの欲求5段階説の生理的欲求・安全の欲求・社会的欲求に該当し、動機づけ要因は承認欲求や自己実現欲求に当てはまると言われています。

マクレガーのX理論Y理論

マクレガーのX理論Y理論とはES調査後に人事施策を打つ場合などにどのように従業員を動機づけられるかに関わる理論です。この理論はマズローの欲求5段階説を基に「人間は本来怠け者で、強制・命令しなければ仕事をしない」とするX理論と「人間は条件次第で責任を受入れ、自ら進んで責任を取ろうとする」Y理論によって構成されています。

X理論においてはマズローの欲求5段階説における低位の欲求(生理的欲求・安全の欲求)を多く持つ人間を想定しています。X理論の人間のマネジメントには目標が達成できなければ処罰・達成できれば報酬を与える「アメとムチ」の手法が効果的です。

一方でY理論では、マズローの欲求5段階説における高位の欲求(社会的欲求・承認欲求・自己実現欲求)を多く持つ人間を想定しています。Y理論の人間のマネジメントには魅力のある目標と責任を与え続ける手法が効果的です。

Y理論では企業や従業員の目標設計を上手に調整できれば、従業員は絶えず自身の能力を高め、ゆえに企業もさらに能率的に目標を達成し成長を続けることができます。つまりこの理論からも、マズローの欲求5段階説のより高位な欲求を満たしている従業員を増やしていく必要性が伺えます。ES調査後に有効的な人事施策を実行するためにも、マズローの欲求5段階説に基づきアンケートを設計し、社内のX理論Y理論型の従業員比率の把握をしていくべきでしょう。

従業員満足度調査(ES調査)の分析手法

ここでは、わかりやすく分析イメージ図を用いてES調査で用いられる6つの分析手法についてそれぞれご説明いたします。

クロス集計

クロス集計とはES調査以外にもほとんどの調査の分析に使われるもので、回答比率や回答者数に性別や年齢、地域などを掛け合わせて集計する手法です。ES調査では下の表のように性別・部署別・役職別・勤務年数別・年齢別・支店別などが掛け合わされることが多いです。

詳しくは「アンケート調査分析で使う「クロス集計」とは? エクセルのピボットテーブルを利用した集計表の作り方も解説」も参考にしてください。


他社比較分析

他社比較分析は、その名の通り同業他社などと従業員満足度を比べる分析です。ES調査では仕事内容・給与待遇・人間関係など様々な角度からESを評価することが多く、そのため他社との比較も仕事内容・給与待遇・人間関係などの個々の単位でなされることが多いです。他社比較することで向上させられそうな個々の満足度を把握したり、自社の現状把握の精度向上につながります。他社のES調査のデータを保有している一般企業は稀ですので、他社比較分析をしたい場合はそのようなデータを多く保有する外部の調査会社やコンサル会社に依頼することになるでしょう。(ES調査の外部サービスを知りたい方はこちらを参照)


経年比較分析

経年比較分析もその名の通りある指標の経年変化を分析することで、ES調査に限らず多くの調査で行われる分析方法です。経年比較分析はES調査後に立案した施策の効果測定時に主に用いられます。また、経年比較分析とよく似た分析方法にパルスサーベイというものがあります。これは毎日のように同じような質問をいくつかする分析のことで、時間解像度高く従業員を監視することができます。ES調査は年に数回しか行わないため、例えば従業員の人間関係の満足度の変化を時間解像度高く分析したい場合などに用いるとよいでしょう。


構造分析(満足度構造分析)

構造分析とは、従業員が総合的な満足度を決める上において、どんな個々の満足度を重視しているのかを分析する手法(相関分析)です。これにより、個々の満足度の値だけでなくその個々の満足度の重要度(どれだけ総合的な満足度に寄与するか)の値まで分析することができます。この集計には統計学の分野である重回帰分析(標準偏回帰係数)の知識が必要になります。

ポートフォリオ分析

ES調査におけるポートフォリオ分析では、構造分析により明らかになった個々の満足度の重要度の値を用いて、今後向上させていくべき個々の満足度を明らかにすることができます。この分析では、下の図のようにES調査によって明らかになった個々の満足度の満足度の値と重要度の値を、縦軸×横軸が満足度×重要度のグラフにプロットします。そうすることで、高重要度かつ低満足度の右下の範囲の満足度を向上させていくことが総合的な満足度向上につながるということを分析することができます。この分析方法と他社比較分析の両方を駆使することで、向上させていくべき、かつ向上させられる個々の満足度を見極められるでしょう。

詳しくは「ポートフォリオ分析(CSポートフォリオ分析)の概要と実施時の注意点」も参考にしてください。



相関分析

相関分析とは2つの指標のデータの関係性の強さを表す指標(相関係数)を計算し、数値化する分析手法です。ES調査においては、ESと顧客満足度の値、ESと会社の業績の値(売上・利益)の相関を分析することが多く、つまりESを向上させることは顧客満足度や業績の向上につながると言われているが、実際に自社においてその相関はあるのかを明らかにす分析手法のことを指します。特に顧客満足度とESの相関を明らかにしたい場合は、まず顧客満足度を調査していく必要があるため外部の調査会社に依頼することをお勧めします。

従業員満足度調査(ES調査)実施時の注意点

分析・集計は必ず仮説を持って行う

ES調査では質問数も多く、また分析方法も多岐に渡るため全ての分析を行うことはリソースの問題で現実的ではありません。そのため、分析するときは必ず仮説を持って分析する要にしましょう。例えば、「人事施策として若手社員の給与待遇を向上させていくことで総合的なESが向上するだろう」という仮説を持っていた場合は、給与満足度に関して役職別でクロス集計を行い若手社員の給与満足度を確認し、次に構造分析を行うことで若手社員は給与満足度を重視していることを確認するという意味です。「分析する」というより「確認する」という意識で取り組みましょう。

アンケートの分析・集計は可能な限り自動化する

ES調査は年に数回ほど行うことが多く、同じような分析を繰り返すことが予想されます。そのため、作業を効率的に進める・自分以外にもできるように分析集計作業は自動化することを前提に行うとよいでしょう。

従業員満足度調査は基本的に外部委託する方が良い‍

ES調査を実施するにあたり、人事・労務ソフトを使い内部主導で実施する方法と調査会社やコンサル会社などに調査を委託して調査する方法の2つの方法があります。内部主導で行う場合はコストを安く抑えることができるなどの利点がある一方で、基本的には外部に委託する方が良いとされています。これは内部で実施すると従業員が警戒し率直な回答をしない、またES調査はアンケート設計から人事施策実行・効果測定まで膨大な労力と人事の専門知識を要するためです。

ES調査の外部サービスの概要に関しては、「従業員満足度調査の外部サービスの概要とは」を参考にしてください。

質問を多くしすぎない‍

外部のES調査サービスは100問前後の非常に多くの固定質問がなされます。これは回答時間にすると大体30分前後で従業員の大きな負担や会社側のコストになるだけでなく、意識が散漫になり正確な回答が得られないリスクが生じます。従業員の負担を軽減し質問数を少なくするためにも、可能な限りオーダーメイドにアンケートを設計する必要があるでしょう。「回答所要時間/質問数が回答完遂率に与える影響」の調査コラムを参考にすると回答時間10分(30問程度)を目安とするとよく、またアンケート設計時にはこちらの心理理論の記事や、こちらの質問例文集が役立つでしょう。

‍ES調査結果を基に必ず従業員満足度向上のためのアクションを起こす‍

ES調査はあくまで目的を達成する手段であって、ES調査後は必ず次のアクションを起こすことを徹底しましょう。一方で企業はすでに働き方改革を推し進めており、できることは大体やりつくしている状態です。そのため、ES調査で課題を把握しても考えられる施策はすでにやっていて手詰まりになっていることが多々見受けられます。そうならないためにも、アンケート設計の段階から深い仮説に基づいて設計・分析し、人事の専門家とともに施策を検討する方がよいでしょう。

施策検討の際には「従業員満足度調査後の施策検討時に役立つ理論とは」も参考にしてください。

従業員満足度調査(ES調査)で使用する指標

従業員満足度と一口にいっても、満足度は企業の様々な要素から成り立っています。以下で上げる満足度の指標は時と場合によって柔軟に変化するためあくまでも一例ですが、参考にしてください。

仕事への満足度

社員が現状携わっている仕事内容・量やそのやりがい・達成感は、満足度に影響しているとみなすことができます。

企業理念・経営への満足度

企業としてのビジョン・経営方針が社内で浸透しているか、そのビジョン・経営方針に社員が理解・共感しているかどうかは、満足度に影響しているとみなすことができます。

処遇・福利厚生への満足度

評価やそれに伴う報酬・給与、また福利厚生も直接的に社員と企業を繋ぐ要素として、満足度に影響しているとみなすことができます。

職場環境・企業風土への満足度

社内の風通しや快適に仕事に打ち込むことができるかどうかは、満足度に影響しているとみなすことができます。

人間関係への満足度

企業の一社員として働いていく中で、職場の人間関係は仕事のパフォーマンスに関わってくることもあるため、満足度に影響しているとみなすことができます。

上司・マネジメントへの満足度

上司との関係、上司の仕事への取り組み方、育成・マネジメントスキルは、その上司の部下の満足度に影響しているとみなすことができます。

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近藤 恭平 | Kyohei Kondo
北海道大学工学部卒業後、エニグモ、リクルートを経て、スタートアップを共同創業。同社退職後は BCGデジタルベンチャーズを経て、株式会社 Quest に Join。事業オーナー目線でのカスタマー・エキスパートリサーチに強み。

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